Research Topic
東京大学と富士通株式会社の10年以上に渡る共同開発により、スーパーコンピュータによって人の心臓が再現できるようになりました。この技術を活用し医療現場のニーズに迅速に応えられる実用モデルが開発されました。それが心臓シミュレータです。
心臓シミュレータは 、CT や超音波画像を含む臨床データをインプットデータとして、分子レベルでの電気的・力学的挙動を計算することで、個人の心臓の動きを忠実に細部まで再現できます。心臓の動きに加え、例えば心臓の各部位でのエネルギー消費量も計算でき、外見だけではなく筋肉の厚みの変化や内部構造まで、更には、血液の流れも精密に計算されます。これはスーパーコンピュータの演算能力を活用することでシミュレートすることが可能になった世界最高峰の技術です。
これにより、現在の臨床検査機器では得ることが難しい情報までも事前に把握でき、また仮想空間上で再現された心臓にいろいろな治療を試みることができるため、より合理的な診断や患者様の身体への負担の少ない治療法の提案が可能になります。
心臓シミュレータを活用して、様々なサービスを提供するための研究開発を行っています。
本テーマは、筑波大学附属病院とPIA株式会社の共同研究により進めてられております。数年以内に、医療機器の薬事承認を取得し、販売を開始する予定です。
今回対象としている両心室ペーシングによる心臓再同期療法(CRT)の患者様の数は、日本では2019年に5,000人以上(CRT-D+CRT-Pの新規植え込みと交換)、米国の調査では2002~2012年で50万人以上います。また、CRTの世界における医療費は2016年で47.4億ドル(約5,000億円)、2025年には92億ドル(約1兆円)に達するとの予想もあります。
本サービスを提供することで、効果のない侵襲的な治療を無くすと同時に、これら膨大な医療費を削減することを目指しています。さらに、従来は効果が限定的と考えられてきた患者様の中から、心臓再同期療法の効果が大きく期待できる患者様を個別に予測でき、効率の良い医療の提供につなげられることも期待できます。
本テーマは、国立循環器病研究センター、東京大学、株式会社UT-Heart研究所、株式会社クロスエフェクト、PIA株式会社の共同研究により進められております。
日本国内では、100人に1人の割合で、先天性心疾患を持つ赤ちゃんが生まれています。そして、成人まで含めると、患者様の数は約60万人に達していると言われています。
シミュレーションの有効性を実証する臨床研究を急ぐと共に、保険診療に先立ち自由診療も視野に入れることで、早期に先天性心疾患の患者様のQOL向上に貢献したいと考えています。
その他にも、様々なサービスを視野に入れた研究開発を進めてまいります。
例えば、心不全の半数近く(47%)を占める虚血性心疾患の原因を突き詰めることで、有効な診断支援や予兆検知を行うことを考えています。従来のCTや超音波装置といったモダリティでは見ることができない細かいレベルの血管の血流までをシミュレーションにより可視化できるようになると、診断・治療の世界に大きな革新が起こります。
また、心臓シミュレーションを通じて得られる従来にない知見を活用し、新たな切り口から教材を作る予定です。医学教育や医療現場に提供することで医療関係者の心疾患に対する理解を深めスキルアップを図ったり、大学での研究や医療機器メーカーに提供することで新たな機器開発に活用したりすることを考えています。
患者様の目の前で心臓を3D再現し、診断や治療のシミュレーション結果をビジュアルで見せられる「デジタル医療」の世界を実現します。